イジワル上司に恋をして
「コントか。そんな格好になるほどビビるなんて。バーカ」
「ん、なっ……バカって!」
コイツーー! なんかだんだんあからさまにイヤなヤツになってってるな!
座面にお尻を乗せ直して、キッと黒川を睨むように見上げる。それから、ふいっと視線を手元に戻して作業を再開した。
「手、止めてんなよ。花嫁の写真でも見て、自分でも重ねてたか?」
あながち間違ってないその指摘に、顔が赤くなるのを堪えながら、必死に冷静を装う。
そんなわたしの努力を、おそらくコイツは感じ取ったんだろう。無視したって、やめるどころか、私の前になぜか腰をおろして話し続ける。
「予定もまだなさそうなのに?」
「……」
「まあ、想像するのは自由だけどな」
「……」
「ああ。まさか――“西嶋くん”がここに来たからって、もうそこまで妄想し」
バン! と、黒川の話の途中でテーブルに両手を大げさに置いた。
その流れで、わたしは無言で席を立つ。
肘をつきながら、全然動じない顔で黒川はわたしをじっと見る。
「……職務放棄?」
真顔でひとことわたしに言った。
コイツのこういう顔はもう何度か見てるけど、未だに腹ん中でなにを考えてるのかわかんない。
嘲笑ってるのか、冷ややかに見ているのか。怒ってるのか。
こんなふうに、普段から自身を使い分けるようにするって、相当すごいことだと最近思う。
そして、コイツは完璧だから。きっと無意識にでもそうやって演じ分けられるヤツなのかも、とも思った。
だから、わたしが感じたこと。
無意識にでもそうやって裏表を使い分けられるって、一体どのくらい前からそんなふうに生きてきたら出来ることなのか。