イジワル上司に恋をして
わたしを“読めない顔”で、じっと見つめる。
その黒川のことを、わたしも負けじと見つめ返す。
って、コイツの背景なんてわたしに関係ないし、コイツの二重人格がすぐに改善されるわけでもないだろうし。
わたしは途中で考えるのがバカバカしくなって、ふいっと先に目を逸らして言った。
「喉が渇いただけですっ」
なんか、今、一瞬だけ“同情”に似たような感情を抱くとこだった!
こんな可愛げのかけらもない、尖った尻尾が生えたようなヤツに。
あー、なんか調子狂わされるな、本当に!
ホットミルクでも飲もう。
イライラはカルシウム補って、どうにか回避!
共有冷蔵庫を開け、牛乳を取り出すと、わたしは片手なべにカップひとつ分だけ牛乳を注いだ。
沸々と気泡が出始めたら、ゆっくりとかきまわし、火を止める。
ゆらゆらと立ち上る湯気と共に、それをカップに入れると、自然と口元が緩んでいた。
ああ、美味しそう。なんか心が落ち着く。一日の終わりはホットミルクが癒やしかも。
その瞬間だけは、背後にあの黒川がいることも忘れ、目の前の温かな飲み物で心がいっぱいになる。
両手で持ったカップを、そーっとテーブルまで運ぶと、ふと、閃いた。
「そうだ!」
わたしは無意識にそう漏らし、休憩バックの中から食べかけの袋を、おもむろにガサッと出した。