イジワル上司に恋をして
ふいっと体ごと横に向けながら、まるで子どものように頬を膨らませたわたし。
だけど、そのくらいあからさまな態度に出なきゃ、この黒川って男には効き目はないだろうから。
すると、わたしの読みは当たったというべきか。黒川はガタッと席を立った。
よし! ようやくいなくなる! 早くいけー!!
そう心の中でガッツポーズをしたときに、ぼそっと聞こえてきた。
「単純なヤツ……」
その一言に、反射的に顔を上げる。けど、そのときにはもう黒川はわたしに背を向けてたあとで。
あっという間に遠くなる、スタイルのいい背中をわたしは呆然と見送った。
……だって、なんか、今の言葉。
あんまりイヤな感じ、しなかったから。
黒川が完全に見えなくなってもなお、その言葉が耳になんでか残ってしまって。
あの性悪が、どんな顔して言ったのか、って一瞬思ってしまった声だったから、自然と目がそこから動かなくなった。
「……いや! 気のせい! ていうか、なにしに来たんだアイツは!」
ぐりん、と頭を元の位置に戻したわたしは、大きな独り言を部屋の中に吐きだした。
そして、目の前の紙の束に再び手を伸ばして作業を始める。
『暇人』とか『冷やかし』とか、そういう理由を自身で考えてはムカッとしてパンフを折る手に力を込める。
そんな自分にハッとして、もう温くなってしまったホットミルクで喉と心を潤す。
それでもアイツの影が、なかなかわたしの中から消えてくれなくて。なにか他のことでも、と思い返したときに、重大なことを思い出した。
作業を止め、制服のポケットに手を伸ばす。
その指先の感触で、ちょっと硬めの紙の感覚を感じると、それをそこから取り出した。