イジワル上司に恋をして
自分の口を手で抑えても、もう言ってしまったあと。
わたしは肩を上げたまま、一度逸らした目線を恐る恐る黒川に戻すと……。
「……へぇ?」
わ、笑ってる……! しかも、片方の口角だけ嫌味ったらしく吊り上げて! 超、生き生きした目で!!
「ど、どうでもいいじゃないですかっ。それより、なにか?!」
強引に話を終わらせたわたしを、上からニヤリと笑って見下ろす。
コイツは、仕事忙しいはずなのに、わたしに構うとかどんだけヒマなんだ! と心で叫びつつ、黒川の指示を待つ。
「明日の婚礼の引き菓子が届く予定だから、来たら内容確認して。ちょっと手が足りない」
「あ、はい……」
急に上司に戻るこの感じが、未だについていけない。
間の抜けた返事を返すと、黒川はそのまま背を向けてしまった。
明日、土曜日か。あ、昨日聞こえてきた香耶さんの担当の婚礼かな?
ていうか、こういう指示も、別にアイツがわざわざこなくても、香耶さんとかがしてくれればいいのに……。
そんなことを考えて、黒川のカッコいい後ろ姿に、じとっとした視線を向けていたら、急にヤツが振り返った。
ビクッとしたわたしは、姿勢を正してしまう。
「……今日は残業になんなきゃいいなぁ?」
「――――!」
なんって性格悪いの! あんの、仮面上司がっ!
その憤慨した思いを拳に乗せて、胸のあたりまで持っていく。でも、それ以上のことなんか出来るはずもなく、唇を噛みしめた。
そんなわたしを見て、ヤツは片眉を上げて勝ち誇ったような顔をして居なくなっていった。