イジワル上司に恋をして


ようやく、午前中の、ヤツに対するイライラを忘れていた昼過ぎ。ショップの入り口から、馴染みの配達員が顔を見せた。


「毎度どうもー。お荷物です」
「あ、どうも。いつもご苦労さまです」


台車に乗せたダンボールを、指示しなくても奥へと運びいれてくれる。
その荷物を目で追いながら、黒川の指示を思い出す。


ああ、そうだった。明日の大事な引き菓子が届くんだった。
ていうか、またアイツのむかつくこと思い出しちゃったじゃん。

って、あの人は何の罪もない。ただ、注文したものを運んでくれただけ。アイツへの感情を出しちゃダメダメ……。



受領のサインをしている手に力を込めつつ、顔はもちろん笑顔のまま、配達員の人を送り出した。


はぁ……。じゃあ確認するか。仕事じゃなかったら、あんなヤツの言うことなんか聞きたくないんだけど。でも、放棄して困るのは香耶さんや、お客様だしね。
あー、わたしって大人! うん、絶対アイツより大人!


「美優ちゃん。ちょっと裏に入るから、お店お願いしていい?」
「はーい」


美優ちゃんに快く了承を得たわたしは、裏の事務所へと向かった。
未だにブライダルの事務所に足を踏み入れるのは、ちょっと緊張する。

きょろきょろとまわりを見ると、事務所がガランとしてて、みんな接客に追われているのがわかった。


良かったぁ。誰もいない。そりゃそうか。だから、アイツはわたしにこの仕事を頼んだんだよね。


ひとりきりということにホッとして、今届いたばかりのダンボールに手を添えた。
中身を傷つけないように、慎重に開封する。

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