イジワル上司に恋をして
「えーと……」
個数を確認すればいいよね。あ、あと納品書の内容と商品が一致してるかと……熨斗(のし)の名前のチェックと……。
黙々と検品をし続けるわたしは、集中するとなにも聞こえなくなる性質(タチ)だ。
だから、後ろから誰か近づいて来てるなんて、微塵も気付かない。
ぽん、と肩に置かれた手に、しゃがみこんでいたわたしは「きゃあ」と声を上げ、尻もちをついた。
「ご、ごめんね? 驚かせちゃって……」
「か、香耶さん……!」
「大丈夫?」
そっと差し出された、白くて細い手に助けられながら、わたしは立ち上がった。
「なっちゃん、いつもありがとう」
「あ、いえ……わたしはただ、黒川さんに指示されただけで……」
アイツの命令じゃなきゃ、もう少し楽しい気分でいられたはずだけど。
いやいや! もうなにも思うまい。香耶さんのため。明日、婚礼予定の斎藤さんのため!
笑顔を作って香耶さんに答えると、ダンボールを覗きこむようにしながら香耶さんが言う。
「内容、間違いなかったかな?」
「あ、はい。納品書通りでしたよ! 斎藤様、鏑木(かぶらぎ)様両家の引き菓子で、バームクーヘン6センチのが90個」
なんの問題も見つけられなかったわたしは、自信満々に香耶さんに報告する。
すると、香耶さんがバッと顔を上げ、神妙な面持ちでわたしを見た。
「……え?」