イジワル上司に恋をして
笑顔が消えた香耶さんのその表情に、わたしの顔も凍りつく。
嫌な予感がして、ただひとことそう聞き返すと、香耶さんは慌てて納品書を見て呟いた。
「……6センチ?! 8センチじゃなくて?!」
「え、えぇっ!」
香耶さんの言葉に、わたしも一気に青褪める。
ガサッと香耶さんらしからぬ、少し乱暴な手つきで一箱ダンボールから引き菓子を手に取った。
「この大きさ……やっぱり6センチが来てる……!」
もう何年も務めてる香耶さんは、箱の大きさだけでそれを確認すると、そのまま固まってしまった。
わたしはそんな香耶さんの隣にいながら、なんて声を掛けていいのか、なにをすべきかわからなくなってしまって、一緒に立ちつくすだけだ。
「どうした」
顔面蒼白のわたしたちに気付いたのは、黒川だった。
わたしはやっぱりなんにも言えなくて。
香耶さんが動揺しながらも、黒川に状況を説明し始める。
「黒川くん……! どうしよう。明日の婚礼の引き菓子が間違ってるの! 8センチのはずのものが全部6センチ……!」
普段の香耶さんからは想像できないパニック状態の様子に、わたしは事の成り行きを黙って見るのがやっとだ。
「一体どうして……わたしが発注ミスしたのかしら? それともメーカーが見間違えて……せめて、大きい方に間違えていればよかったのに……!」
「今、それはいいから」
おろおろと慌てふためく香耶さんに、黒川は決して取り乱すこともなく。もちろん、怒ることもせずに、冷静に言って退けた。