イジワル上司に恋をして


「傘、お忘れですよ」


一軒目の居酒屋を出ようと、席を立ったときに、隣の男性がにこりとわたしの傘を手に取った。


「……あ! どうもありがとうございます」


ぺこりと大きくお辞儀をして、差し出された自分の傘を受け取る。顔を上げてその男性と目が合うと、またにこりと笑ってた。


優しい笑顔のひとだ……。


お酒もそこそこ入っていたわたしは、ぽわっとしたままそんなことを思い、停止する。


「あれ? なの花っ」


少し先で聞こえた由美の声で、わたしは再び動き出し、男性にお礼を告げて由美のもとへ駆けて行く。


「ごめん! 傘忘れて……」
「なの花、いっつもボーっとしてるから」
「別に『いつも』ってわけじゃ」
「はいはい。行くよ」
「えっ」


『支払いは?』


そういう目で、前を歩く由美を見る。由美はその視線に気づきもしないで外に出た。


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