イジワル上司に恋をして

『――じゃあ、この穴埋めはしてくれるのかな? 今度』
「えっ……」


冗談にも聞こえるような、でも、本気で言ってくれてるような……。
いや、きっと、わたしに気を遣って、気にさせないようにしてくれてのことかな。うん、そういう先輩だったと思うし。


「は、はい。もちろん!」


そう結論付けたわたしは、声を張って答えた。
実際に『今度』なんてあるかわからないけど、そういう答え方が自然だと思ったから。

だから、意外な言葉がこのあと返ってくるなんて、いくら想像好きなわたしでも予想できなかった。


『……なんかさ。会いたいのに会えないのって、余計会いたくなる』
「あ……いたい……?」
『なんでもない。じゃーまたメールする。残業、頑張って』


なんの心構えもしてなかったときの、予想外なときって、反応が鈍る。
わたしはやっとのことで、「はい」と答えると、すぐに通話は切れた。


今……。今、『会いたい』って言われたよね?
空耳とか、幻聴とかじゃなく、リアルに言ってたよね?

こ、こんなことって……本当にあるんだ。


「おい。やるっつったからには、ちゃんとやれよ。なに長いことサボってんだよ」


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