イジワル上司に恋をして

携帯を両手に固まっていると、いつの間にか後ろに黒川がいた。
意味ないのに、慌てて隠すように携帯をポケットに入れて、口ごもりながら反論する。


「さ、サボってなんか……！　今、戻るとこだったんですーう！」


子どもっぽい言い方になってしまった自分に後悔。
せっかく楽しい気分になりそうだったのに、まったくいつも、台無しにするタイミングで現れるな、コイツは。


わたしは、ちょっとムカムカとした気持ちを、仕返しするように嫌味混じりで言った。


「アナタこそ。こんなとこにわざわざ足を運んで、サボってるんじゃないんですか」


ガタッと椅子を引き、ドカッと座ると、無駄に長い足を見せびらかすかのように組む。
そして、普段、営業中には絶対に出さない煙草を、内ポケットから取り出した。


「うるせぇな」


しかめっ面をしながら、キン、と音を立ててライターに火を灯す。それを、咥えていた煙草につけながらヤツは続けた。


「飲みモン、なんか作れよ」