イジワル上司に恋をして
「アタリ、だろ?」


本当なら、今頃どこかのお店に入って、おいしいお酒とおいしい料理を食べて。極上のひとときを過ごせているはずだった。

それが、今や、職場で仕事をして、しかも一緒にいるのは黒川で。
こんなふうに、コイツにミルクティーをいれてあげてるだなんて、天と地の差だ。


「……どーぞ」


若干乱暴に置いてやったカップを、黒川はなにも言わずに見つめていた。


不本意だけど。あからさまに無視も出来ないし。仕方ないから淹れてやったわよ。
でも、あまり好みじゃなさそうだけどね。


横向きに座って、黒川をチラ見した。
ヤツは、最後のひと吸いをした煙草を携帯灰皿に押しつけて、切れ長の瞳をわたしに向けた。


なっ、なによ。無言で威嚇するなんて! 確かに確信犯だけど! 甘めの飲み物を選んだのは。


黒川の視線が痛くてわたしはすぐに顔を背け、両手でカップを持って口付けた。
あったかい蒸気の中に感じる、芳醇なバニラの香りが鼻を通り、やさしいミルクの味が喉を流れる。

わたしが今淹れたのは、バニラフレーバーの紅茶で作ったミルクティー。

甘めの香りが他より強いこの紅茶は、黒川みたいなタイプには苦手かと予想して選んでみたんだけど。

それが的中してるのか、黒川は未だに口をつけることがない。

自分で目論んだことだけど、なんだか気まずい。
落ち着きなく、何度も口をつけては戻しの繰り返しをしていると、黒川が沈黙を破る。
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