イジワル上司に恋をして

「由美! いくらだったの?」


追いかけるようにしてわたしも外に出ながらそう聞くと、2軒目へと進める足を止めることなく由美が大きく手を振った。


「あー、今日はいいよ。給料日だったからね」
「そんな、ダメだよ」
「その代わり、今晩泊めてね」
「や、それはもちろん構わないけどっ……」


追いつき隣に並んだわたしを、由美はまるで本当の姉のような、温かい眼差しで見る。

由美はいつも優しいし、気立てもいい。

たまにごちそうしてくれたりすることはあるけど、それはコーヒーとか、デザートとか。そういうときだけだったから、今日みたいな食事代を出してくれるなんてことは初めてだ。


――由美、どうしたんだろ。


さっきの瞳(め)とこの行動に、ふと疑問符が頭に浮かんだ。けど、酔ってたわたしはここでは深く追求することなく、由美の隣を歩いていた。


2軒目も、大体同じパターン。
リーズナブルな、若者が多い小さな飲み屋か、それよりはちょっと大人の雰囲気のバー。

今日はバーに行くんだな。

由美の進路方向でそれを悟ると、なにも言わずに由美に添うように歩く。


「いらっしゃいませ」


カウンターから声を掛けられたわたしたちは、カクテルを頼みながら空いてるカウンター席に並んで座った。


「ねぇ? 由美、なんかあったの?」


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