イジワル上司に恋をして
ヤツの攻撃に、どう応戦しようかと作戦を練り始めたとき。
ありえない話の展開に、思考回路はショートする。
「――と、思ってたけど、そこまで腐ってなかったみたいだな」
コトッとカップをわたしたちの間にあるテーブルに置き、綺麗に整えられた爪で取っ手を弾いた。
『ああ、コイツにミルクティって、なんて似合わないんだ』なんて、客観的に眺めていたら、伏せていた黒川の目がわたしを捕らえた。
「今日は、オマエが早くに検品してくれたから助かった」
――聞き違いかと思った。
だって、嘘やお世辞だとしても、一生コイツの口からそんなことを聞くなんて微塵も思ったことなかったし。
だから、危うく両手で持っていたにも関わらず、マグカップを落っことしてしまいそうになったほど、驚いた。
あまりに唐突に置きた出来事に、なんにも言えずにいた。
ヤツは、そんなわたしを見て、軽く鼻で笑ったあとにいつもの調子で言った。
「ま、オレが指示したのに後廻しになんかしたら、タダじゃおかないけどな」
「……なんですか、それ」
ぽつりとわたしが言うと、黒川は「さぁな」と言うだけで、わたしが淹れたミルクティーを全部飲み干して席を立った。
慌ててわたしも温くなったミルクティーを飲みきって、黒川の後を追った。
事務所に戻ると、また同じ作業を二人で無言のまま繰り返す。