イジワル上司に恋をして
……さっきの。一体何が言いたかったんだろう。
ほんと、香耶さんのためじゃなかったら、コイツの二人きりの残業なんて手をあげやしなかったけど!
そう、香耶さんのため。決して目の前のこの男が、「手伝ってくれ」って素直に頼んできたからってわけじゃ……。
「おい。お前はもうそれいいから、袋に入れてけ」
「あ、はい……」
あーやめやめっ。コイツのこと考えるのは!
紙袋を開きながら、意識的に頭の中を違うものに変えようとする。
ああ、そういえば。香耶さん、この前言ってたっけ。
『仲直り』がどうとかって。新婦さんが、って聞こえた気がするけど、誰かとの仲を取り持つとかなのかな?
黒川なら、全部知ってそうだけど……。
「なんだよ」
「!」
挑戦的なコイツの言い方に、やっぱり誰が聞くものか! と、わざとらしく顔を逸らしてやる。
その行動に、珍しくカチンとでも来たのか、ヤツが食い下がるように絡み始める。
「その態度、上等だな。気持ち悪いから言えよ」
「……別に」
「あ? なんだよ、お前」
「だから、『別に』っ」
「面白くねぇな」
最後のひとつに熨斗をつけ終えた黒川が、椅子から立ち上がる。
そんな脅しになんか、負けませんよ! と誇示するように、わたしは無視して袋詰めを手早く続けた。
「デート出来なかった八つ当たり?」