イジワル上司に恋をして

直感だけで、わたしは聞いた。
すると由美は、一瞬驚いた目をわたしに向けて、奥歯にものが挟まったように答えた。


「……んー……いや、あのさ。急なんだけど……」
「え? なに? なに?!」


由美という人間は、学生時代から爽快な女子で。
言いたいことはズバリと言うし、何事にも中立で、公平にするような……かっこいい女だ。

わたしはそんな由美を、姉御のような位置づけをしていた。

その由美が、こんな言いづらそうにすることってなに? え? わたしへの不満?!


「だっ、大丈夫! わたし、どんな忠告も、きちんと受け止めるから!」


突如、私が手のひらを見せて真面目顔で言うと、「ははっ」と由美が吹き出した。


「いや……なの花のことじゃないけど?」
「……へ? あ、そうなの……」
「わたし、結婚するわ」
「ふー……ん……んん?」


目の前に置かれたグラスを受け取りながら、流すかのように相槌をうつ。
そのゆらりと揺れる液体に視線を落として、由美の言葉をプレイバックする。


「結婚」……? ケッコン?? け……!!


「結婚!!?」


思いの外大きな声になってしまったわたしは、目だけを動かし、周りを窺って声のトーンを落とした。


「けけけ、ケッコンって! ちょ、ちょい待って! そんな相手、いた?!」


だって、だって! 彼氏いるなんて聞いてなかったし、知らなかったけど?! いや、好きな人がいるような話は聞いてたか……。
でも、なに? どういうこと?! 親友だと思ってたのはわたしだけで、由美はさほどわたしのことなんかどうでもよくて?

でもさすがに“結婚”ってなれば、言わないわけにもいかないし、ここらでカミングアウトでも――みたいな……?


< 9 / 372 >

この作品をシェア

pagetop