イジワル上司に恋をして
その言い方にも、もちろんカチンとくる。でも、この先で待ってることがなんなのか気になるし。仕事の可能性が高そうだと思うと、渋々ヤツに従ってわたしは小走りで黒川の後ろにつく。
おそらく、今、披露宴真っ最中だと思う、香耶さん担当の会場。
その扉の前で、わたしは黒川の背中に話しかけた。
「……あの。ここに入るんですよね? なにしに――」
「いいから、黙って見てろ」
問答無用とばかりに言葉を被せると、黒川は目の前の扉を一人だけが通れるくらいを静かに開けた。
無言の視線で促されるまま、わたしは黒川がドアを抑える腕をくぐるように会場に入る。わたしの後に続いて、ヤツも会場に入ると、そっと顔を近づけてきた。
「くれぐれも、邪魔だけはすんなよ?」
い、いちいちムカツク……。
イラッとしながらも感情をセーブして、披露宴に意識を向けた。
『それでは、ここで、ご新婦のお色直しに入らせて頂きます』
司会者の声が聞こえると、スッと新婦が高砂で席を立つ。
イヤでも無意識にそちらに視線が向くと、その近くで進行を見守る香耶さんの姿が見えた。
『ご新婦から、エスコートをお願いしたいという方を紹介させて頂きます』
司会のその言葉が聞こえると、新婦はちらりと香耶さんを見た。そして、アイコンタクトを送られた香耶さんもまた、無言で頷いていた。
『ご新婦のお姉様の、鏑木仁美(ひとみ)様。どうぞ、前へお越しくださいませ』