イジワル上司に恋をして
わぁっと会場が拍手で包まれる中、お姉さんにスポットライトが当てられる。
和装の姉妹が並んで歩くだなんて、絵になるだろうなぁ。
単純にそう思って、ほぅっと息を吐きながら披露宴に見入っていた。
でも、なにか違う、と感じ始める。
お姉さんが、立ち上がるも、なかなか前へと歩を進めないのだ。
「……?」
不思議に思って、新婦の様子を見てみると、彼女もどこか緊張している面持ちで。
この会場にはたくさんの親族やゲストがいるのに、その瞬間だけ、姉妹しか存在していないようにわたしは思えてしまった。
動かない状況に、周りもだんだんと目に疑問の色を浮かべている。
すると、香耶さんが、スッと新婦にマイクを差し出した。
『……おねぇ』
言葉に詰まらせながら、ようやく口にしたのは、おそらく新婦のいつもの姉の呼び方で。
そのあとは、またしばらく無言になってしまった新婦に、わたしは釘づけになる。
視線をそのままに、黒川に小声で話しかけた。
「これ……って、余興かなにか……?」
「黙って見とけ、っつっただろ」
返される言葉は、同じ語句。
仕方なく、わたしは無意識に息を潜めて、動向を窺った。
『――今日は、ありがとう。来て……くれ、て』
感極まったように、新婦は声を震わせてそれだけ言うと、もうなにも言おうとしなかった。いや、言えなかったのかもしれない。
すると、ようやくお姉さんが歩き出し、新婦の元へと辿り着いた。
表情が角度と遠いのとで、あまりはっきりとはわからないけど、お姉さんは……真顔?
そう言えば――。