イジワル上司に恋をして
「ちょっと刺激が強すぎたか」
*
……あれは、気のせいなんかじゃない。空耳でもない。
来た道を戻りながら、わたしの頭はこともあろうかアイツのことだけだった。
一瞬――ほんと、一瞬だけ。アイツの素を垣間見た気がした。
「……なに、あれ」
階段を下る足を止め、思わず口から出てしまった。
あんな奴なんて、どーでもいい話じゃない。様子がいつもと同じだろうが違かろうが。
ただの上司で、ちょっと……いや、かなり性格悪くて、どんな人間かさっぱりで。
ムカツクことばっかり言うくせに、傘に入れたり。「バカバカ」言いながら、気にしてた婚礼の詳細を見せてくれたり。
苦手なくせに、わたしが淹れたミルクティを飲んだり……。
……ああ、全然わかんないヤツ。
休憩室で、コン、と置いたカップの水面を眺めていても、まだそのことが頭を掠めていた。
「あー……ヘンだ」
ボケっとしながらショップに戻る。そんな自分に気付くと、『ボケっとすんな、妄想女』なんて言われるところだろうな、なんて思う辺り、やっぱりヘンだ。
「あ、鈴原さん! おかえりなさーい」
「え? あ! ただいま……」
美優ちゃんが笑顔で迎えてくれると、わたしたちはレジで並ぶ。ガラス越しに見える、いき交うお客さんを眺めながら美優ちゃんが言った。
「ほら! 1件目の婚礼終わったんですねぇ。引き出物持って歩いてる人、たくさん!」
「ああ……」
そういわれて、わたしも手提げの紙袋に目を向けた。
「あ! 鈴原さん、知ってます?」
突然思い出したかのように、そう言った美優ちゃんは、声のトーンを落として続ける。
「なんか、ブライダルで手違いがあったとか」
ああ。あの件か。
知ってるもなにも、アイツに巻き込まれたも同然で、しかもアイツと二人で残業して。さらに――。
……あれは、気のせいなんかじゃない。空耳でもない。
来た道を戻りながら、わたしの頭はこともあろうかアイツのことだけだった。
一瞬――ほんと、一瞬だけ。アイツの素を垣間見た気がした。
「……なに、あれ」
階段を下る足を止め、思わず口から出てしまった。
あんな奴なんて、どーでもいい話じゃない。様子がいつもと同じだろうが違かろうが。
ただの上司で、ちょっと……いや、かなり性格悪くて、どんな人間かさっぱりで。
ムカツクことばっかり言うくせに、傘に入れたり。「バカバカ」言いながら、気にしてた婚礼の詳細を見せてくれたり。
苦手なくせに、わたしが淹れたミルクティを飲んだり……。
……ああ、全然わかんないヤツ。
休憩室で、コン、と置いたカップの水面を眺めていても、まだそのことが頭を掠めていた。
「あー……ヘンだ」
ボケっとしながらショップに戻る。そんな自分に気付くと、『ボケっとすんな、妄想女』なんて言われるところだろうな、なんて思う辺り、やっぱりヘンだ。
「あ、鈴原さん! おかえりなさーい」
「え? あ! ただいま……」
美優ちゃんが笑顔で迎えてくれると、わたしたちはレジで並ぶ。ガラス越しに見える、いき交うお客さんを眺めながら美優ちゃんが言った。
「ほら! 1件目の婚礼終わったんですねぇ。引き出物持って歩いてる人、たくさん!」
「ああ……」
そういわれて、わたしも手提げの紙袋に目を向けた。
「あ! 鈴原さん、知ってます?」
突然思い出したかのように、そう言った美優ちゃんは、声のトーンを落として続ける。
「なんか、ブライダルで手違いがあったとか」
ああ。あの件か。
知ってるもなにも、アイツに巻き込まれたも同然で、しかもアイツと二人で残業して。さらに――。