イジワル上司に恋をして
「オレは忙しいんだ。早く言え」
ズイっと迫られると、もう逃げ場はなくて。
適当なウソでごまかせたのかも知んないけど、なんだかコイツ相手だと本当に頭の中全部見透かされてる気がして。
だから、わたしはバカ正直に、今考えていたことを口にしてしまっていた。
「――どうかなって……です」
「は?」
「だからっ! あの引き菓子を試食にまわしたらどうかなって思ったんです!!」
……なに、コレ。なんか、まるでわたしが逆切れしてるみたいな気分になってきた……。
そんな気まずさで、当然黒川の顔なんか見れない。
視線を斜め下に。言うことは言ったから、口を噤んで。あとは、そのピッカピカの黒い革靴がこのわたしのテリトリーから出て行ってくれるの待ちなんだけど!
「……その理由は」
「――は?」
「なんで、そうしたらいいと思った?」
は……はぁ? 「なんで」って……。ただ、単純にそう思いついたことだし。
なに? そのワケを聞いてまた小馬鹿にでもするシナリオ?
「……初めは、ただ……集客出来るんじゃないかなーって思っただけですけど。
でも、もっと考えてみたら……引き菓子を食べてもらって、小さな実感みたいなの湧いてもらえそうだし。それに合うお茶でも出せば、ショップ(こっち)で置いてる茶葉の売上にも繋がる可能性は出るんじゃないかな……なんてちょっと思っただけです」
自信なんてハナからないから、すごい早口で。
視線は変わらず斜め下。そして、視界にも変わらずにある黒い革靴。
その革靴の主が、足を1ミリも動かさずに言った。
「シフト変更。今日から5連勤な」
「はっ……はぁ?」
「その間、残業もするつもりで」
ん、なっ……なにを、コイツは――?!
なんの嫌がらせだ!! と、勢いよく顔を上げる。が、ヤツの顔を見た途端、その勢いが飛んでしまう。
久方ぶりに目が合った黒川が、笑った。