イジワル上司に恋をして


「なっちゃん。お疲れさま」


ショップを閉めた直後、香耶さんがわざわざわたしの元に来て声を掛けてくれた。


「あ、お疲れさまです」
「……無事に婚礼終われてホッとした。なっちゃんのおかげ」
「えっ。いえ! わたしそんな大層なことは……」


残業中も、全部、黒川の指示通りに動いてただけだし。
綺麗なお辞儀で改めてお礼を言われるほどのことなんて、してないよ!


「でも、びっくりしたぁ。今日黒川くんを見つけたら、横になっちゃんが立ってるんだもの」
「あー……すみません。ちょっと……黒川さんに用事があって……」


『ワケありの婚礼が気になってて』なんて言っちゃいけない気がする……。

やましい気持ち……というのかどうかわからないけど、咄嗟に余計なことを考えたわたしはつい、ごまかして返事してしまう。


「あ。そうそう! 黒川くんから聞いたよ? さっき!」
「へ? な、なにをですか……」


もしかして、式場にわたしがいた理由?!
だとしたら、今わたしがウソ言ったこと、もうバレてんじゃん!!

あわあわと動揺していると、香耶さんはにっこり笑顔で上品に手を合わせて言った。

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