胸キュンっ♡
私のクラスにはサワヤカくんがいる。
いや、私が心の中でそう呼んでいるだけなのだけど。
「あ、片倉さん。おはよう。」
にこっ。
そんな効果音が付きそうなサワヤカスマイルをばったり会った私に向けるヤツ。
『………おはよ。』
ぼそっと挨拶する感じ悪ーい私にもう一度にこっとサワヤカスマイルをお見舞いして、颯爽と去って行く。
……胡散臭い、実は腹黒で…なんて漫画みたいなことを想像してみたり。
実際はそんなことないんだけど。
ある日の昼休み。
数学係の女の子がパンをくわえて本を開く私にノートを差し出してきた。
ちなみに言っておくと、私はぼっちじゃない。
今日は読んでいる本がいいところなので友達の隣でこそこそと読ませてもらっているだけだ。
よくあることなので由佳たちももう諦めているようで、なかなか理解のある友人たちである。
『あ。ありがとう。
…配るの、手伝うよ。』
クラス全員分を一度に持って、なかなかに重そうな彼女を手伝おうと声をかける。
由佳たちにちょっと目を合わせて断ってからノートの山の上半分を取った。
ありがとー、と恐縮する女の子に軽く笑いかけてノートを配り始める。
その数人目が、アイツだった。
『はい。ノート。』
「あぁ。ありがとう、片倉さん。」
にこっ。
やはり効果音付きのサワヤカスマイルがついてきた。
『………どうも。』
面倒なのでついでに周囲の男子のノートも探していると、サワヤカくんが珍しく言葉を続けた。
「片倉さんてさ。
結構優しくて礼儀正しいよね。」
急になにを言い出すんだこいつ。
この時の私は明らかにそんな目を向けていただろう。
そんな私のブリザードな視線をもろとろせず、さらに言葉を続けた彼は存外腹黒だったのかもしれない。
「ひとりでいる時はよく手伝ってるし。
ちょっと何かしてもらうと必ずお礼言うし。挨拶も男嫌いなのに無視したこと、ないよね。」
淡々と、でもにこやかに紡ぐ台詞は予想外のもので。
男嫌いだなんて、言ったことないのに。
それでも次の瞬間までは、よく見てくれてるな、と驚いただけだった。
「結構好きだよ、そういうとこ。」
にこっ。
満面の笑顔で告げられたその言葉に
心臓が、どきっとしたのは……気のせいだ。