ベジタブル
その繋がりのお陰で様々な野菜が手に入り、態々遠くまで仕入れに行かなくて済むのが楽だった。しかし、流石に限界というものが存在する。ジーク曰く「これ以上は無理」という。弁当を主体とした商売をするわけにもいかず、彼の本業は此方ではなく店の仕事を優先しないといけない。
「代金だけど、次に持ってきてほしいな。無理だったら、月賦も受け付けているから。大丈夫。利子は取らないよ。ああ、でも遅れるようだったら事前に言って欲しい。タダ飯は提供しない主義だから」
「利子を取ったら困る」
「大丈夫。悪徳金融のような真似はしないから。それをしてしまったら、信頼を一気になくす」
「それは、信じていいか」
「勿論」
笑いながらそのように話すジークに、アランはいまいち信じられなかったが、彼のことは信用しているので、素直に彼の言葉を受け入れる。それ以上に、弁当の方が魅力的だった。
信頼に関しては人間という存在ではなく、吸血鬼という立場が大きく関係していた。人間は、同種の存在に対して不審に思う一面を持つ。だからといって、他の種族を信用する理由にはならない。
吸血鬼は、人間より信頼を置けるというのもアランの本音。それに人間の周囲には、常に嘘が付き纏っているといってもいい。そして特に吸血鬼は、プライドが高い一族と呼ばれている。
その中でジークは異質な存在といってもいいが、本質は吸血鬼そのもの。つまり嘘をつき相手を騙すというのは、プライドに反するのだ。だから全ての面で正々堂々と行うが、時にジークは容赦ない一面を曝け出してくるので、相手もジークと真剣に付き合わないといけない。
特に商売は信頼関係が必要となってくるので、嘘を付いたことによりそれが崩れてしまったら本も子もない。信頼は築くのにかなりの時間を有するが、崩れ去るのは一瞬の出来事。まさに、金槌で破壊すると一緒だ。ましてや木っ端微塵に砕け散れば、修復もままならない。
だからこそ、何事も慎重に行っていかなければいけない。ジークは人間の世界でそのことを学んだので、彼の店は繁盛している。それに、このように多くの人々が彼のもとに集まって来る。
ジークにしてみれば、人間との繋がりが増えたことが面白いという。彼等は吸血鬼と違って個性豊かな面々が集まっており、そのような人物と喋るのは楽しいしいい気分転換となる。そして疼き出した好奇心が満たされるような感じがし、日々成長しているのを実感できた。