ベジタブル
店を訪れる客に、美味しく最高の料理を提供したい。その思いを抱きつつ、ジークは仕込みを続けていく。そしてその作業は真夜中の三時まで掛かり、お陰で毎回睡眠時間は少なかった。
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新しい日が訪れ、眩しい日差しが大地に降り注ぐ。その光はカーテンの隙間から差込み、ジークの顔を照らし出す。本来、吸血鬼は陽光を大量に浴びると肌が極度に焼けてしまい、尚且つ激しく爛れ見るも無残な姿になってしまう。しかしジークは、一般的な吸血鬼とは違う。
このように朝日を浴びようが普通に生活を送れ、何ら問題がないと思われるが、彼の寝起きは最悪そのもの。髪は寝癖で乱れ、ブスっとした表情は容姿端麗のジークには似合わない。
だからといって、機嫌が悪いのではない。太陽の下で普通に性格が送れても彼の正体は吸血鬼なので、朝が極端に弱いというのは仕方がない。その為、眠りから目覚めても寝台から起き上がれない。
どうやら思考が目覚めていても身体がそれについてこないらしいらしく、間延びした唸り声が響く。枕に顔半分を押し付けながら懸命に眠気と戦っていくが、敵は予想以上の難敵でジークの勝ち目は薄い。
しかし今日は店の定休日ではないので、いつもの時間帯に行き鍵を開かなければ多くの従業員に迷惑を掛けてしまう。それを考えると、朝が苦手とは言っていられない。ジークは、大きく深呼吸を繰り返す。
これは起きる前に行う彼の儀式であり、これを行わないと身体が言うことを聞いてくれない。そして意を決し寝台から身体を起こすが、身体が激しくだるい。意識を集中していないと、再び深い眠りについてしまいそうだ。
サイドテーブルに置かれている手帳を手に取ると、三週間分の予約が書かれたページを捲る。今日は特に、気難しい客の予約は入っていない。そのことに安堵したかのように溜息を付くと、音をたて手帳を閉じた。そう店を訪れる客の中には味に煩い、所謂「美食家」という人物も含まれる。
彼等の舌を納得させるには容易ではなく、下手な料理を出すことはできない。もし不味いと評価が下された場合、後々が面倒であった。そして彼等は、とことん相手を貶していく。
ジークにしてみたら、美食家という生き物は好きではなかった。ただ純粋に食べることを楽しんでもらえばいいという考えが下地にある所為か、客として来られると迷惑この上ない。それに本当に食事を楽しんでいる客達の表情は実に見ていて楽しく、食は人間の感性を高める。