ベジタブル

 噛み潰す度に広がる、口の中に広がる甘味と酸味。いや、どちらかといえば甘味の方が強く感じることができる。収穫前に、沢山の太陽を浴びて育ったのだろう。何個でも食べられるほど美味しく、ミニトマトを丹精込めて作った者の愛情をこれだけで窺い知ることができた。

「美味い」

「朝摘みだ」

「これでしたら、全部貰いたいです。構いませんか? 客に提供したら、絶対に喜びますので」

「勿論、お得意様の頼みを断れるか」

「助かります」

「お得意様だからな」

 店主は虫歯が一本もない真っ白い歯を見せつつ豪快に笑うと、籠の中のミニトマトを一個ずつ紙袋へ入れ替えていく。流石にその量が多く、紙袋の底が切れてしまいそうな雰囲気だ。

 ジークは紙袋を器用に受け取ると、落としてしまわないよう底を片手で抑えもう片方で抱きかかえる。しかし体力に自信がある方ではないので、油断をすれば落としてしまいそうだった。

 吸血鬼は人間と違って、体力を要する仕事が苦手。それに腕力面は幼い子供と同じくらしで、それを証明するかのように筋肉質のムキムキのガッチリ体型の吸血鬼は見たことがない。

「あっ! お金」

「後でいいさ」

「で、でも……」

「品卸の時に、まとめて請求をする」

「すみません」

「いいさ。支払いは、きちんとしてくれているから。まあ、何処かの馬鹿は踏み倒しているが」

「そ、それは――」

「お前も、知っている奴等だ」

「ああ、わかりました」

「全く、何を考えているのか……」

「彼等も必死なのです」

 店主の聞いた瞬間、ジークは苦笑いを浮かべていた。相手が言う「何処かの馬鹿」というのは、夜な夜なジークのもとに弁当を取りに来ている者達のことで。流石に、一日一食というのは厳しい。それにより、彼等は格安で購入できる野菜に目を付けた。だが、彼等は――
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