ベジタブル
「極貧だというのに」
「一応、大目に見ている。しかし、ツケはきっちりと支払ってもらわなければ、商売が成り立たない」
「確かに」
「お前からも、ガツンっと言ってやってほしい。あいつ等の場合、お前から言った方が効果がある」
「わかりました」
店主の話に、ジークは泣けてくる。冒険家とトレジャーハンターは、一体幾ら必要だというのか。流石に「野菜を盗む」という発想に至らないのがせめてもの救いだが、其処までひもじい思いをしていたとは――
彼等に渡す次の弁当はもう少し量を増やしてやらなければと、ジークは心の中で決意する。それに彼等には元気に活躍してもらわないと、世界中の野菜が手に入らなくなってしまう。
利益と私情――
その両方が一致した今、ジークは決意した。
「それと、売り物にならない野菜などはありますか? ありましたら、それを頂きたいです」
「何だ、急に」
「栄養の為です」
「栄養?」
一瞬、店主はジークの言葉の意味を理解できなかった。しかし、前後の会話の内容と「彼等」という単語に、店主は料金を踏み倒している者達だと判断を下す。その瞬間、苦笑を浮かべた。
「何に使うか……いや、お前は料理人。何となく、使用方法はわかる。で、売り物にならない野菜はある」
「では――」
「お得意様からの頼みだ。聞かないわけにもいかない。それに、渡さないというわけにもいかないだろう」
「ええ、できれば……その……本当に、助かります。で、その野菜などですが、店の勝手口付近に置いておいて下さい。いつものように店の中に置かれますと、間違えてしまいます」
「わかった。で、これがそうだ」
その言葉に続き、店主が人参を手渡す。一見、何処に不都合が存在するのかわからないほど、これらの野菜は瑞々しい。しかし、店主曰く「葉が枯れている」らしい。それを聞いたジークは目を丸くすると、人間はどうして見た目に拘るのかと嘆きの言葉しか出なかった。