ベジタブル
「以前食ったが、上手いぞ」
「葉が枯れているだけですから、それ以外は大丈夫ですよ。それにしても、勿体無いです……」
「全て、無料でいいぞ」
「本当ですか!」
「踏み倒される方が、困るんだ」
「説得力があります」
「此方も協力する。だから、後は頼む」
「はい」
このような場合、顔見知りは得である。そういう関係ではなかったら、この状況で料金を請求されていたに違いない。無論、ツケは許してくれない。これができるのは、ジークと店主のような関係になってから。しかし其処までいくのは大変で、一回二回の買い物では足りない。
それに、このような関係になれば得することが多い。一番の利点は、我儘を聞いてくれるということ。そう、先程のように売り物にならない野菜を手に入れることができる。お陰で、彼等の命が救われた。またジークは時折、欲しい野菜を格安で手に入れようと策略を巡らしていく。
それは「野菜を大量に購入するので、全体的な料金を安くしてほしい」というものであった。勿論それは毎回行われているのではなく、それにこれは一方的に言っているわけではない。
ジークは、店主からの提案を呑むことも多い。それは、店で提供している料理を安く出すということ。また予約を受ければ優先して受け入れ、最高の料理で持て成す。だからこと、互いに仲良くやっていけた。
「週末に持っていく野菜は、いつものでいいかな? そろそろ、新しい野菜が出回る時期だ」
「それでしたら、それもお願いします」
「出回りの頃は、高いぞ」
「それは、わかっています。ですが売れない野菜を受け取るので、安くしてほしいのですが」
「お、おい! 売れ残りの野菜は、お前が欲しがっているのだから提供するんだ。それに無料だぞ」
「そうでしたね」
店主の指摘に、ジークは顔を横に向けてしまう。そして交渉に失敗したことを悔しがっているのか、舌打ちをしていた。その態度は店主の視界の中に入り、尚且つ舌打ちの音もバッチリと聞こえていた。ジークの本音に店主は心情は複雑だったが、仕方なく折れてやることにする。