ベジタブル
「いいのですか?」
「特別だ」
「有難うございます」
「本当に、交渉が上手い」
「人生経験が違います」
「流石、吸血鬼様」
「しかし、吸血鬼の中では若いですよ」
「いや、人間とは違う」
「まあ、そうですね」
その言葉に続き、二人は笑い合う。普通、文句を言うと財布の紐が硬い客であったとしたら、購入を躊躇ってしまう。しかし店主は、ジークが絶対に購入するという確信を持っていた。
旬の野菜を料理に使い彼の店で美味しい料理として提供して貰っているので、それに食材をケチる人物ではないということも知っている。だからこそ、なんだかんだ言いながら良好な関係を築いている。
また、ケチにはいいところと悪いところが存在しており、特に料理関係の場合、食材は命に等しい。その次は、料理人としての腕前。そして最高の腕を持っていようが、食材が腐っていたら何もならない。
だからこそ、ジークは自分の目で確かめるようにしていた。それは、他の者達を信用していないわけではない。やはり料理人の性なのか、食材を見ていると心が躍ってしまうという。ジークが、料理人の道を進んだ理由――無論、それは「料理が好き」という趣味が、関係していた。
それに、料理を作っていると時間を忘れてしまう。物事に没頭すると周囲が見えないという言葉が存在するが、ジークは見事にそれを証明していた。これに関して、店主もそれを知っている。知っているからこそ他の客以上にサービスをしてしまい、それに彼はお得意様だ。
「何割、まけてくれます」
「三割だ」
「有難うございます」
「特別だ」
「助かります」
「やっぱり、吸血鬼様だな」
このような会話ができるというのにも、長い付き合いが関係していた。そして両者が交わす言葉の端々に嫌味のようなものが含まれていたが、二人は笑いながら軽く受け流していく。無論、これは本気で言っていないし受け取っていない証拠であり、彼等は声を上げて笑う。