ベジタブル
「ところで、弟子は取らないのか?」
「弟子?」
「お前なら、取れると思うが」
「考えたことはないです。というより、教えるのは向いていないし……何より、面倒かもしれない」
自分が持っている技術が後世まで伝わっていくということは、職人冥利に尽きる。しかしそれを考えるのは人間のいう種族の特徴であって、長い年月を生きていく吸血鬼のジークはそのようなことを考えたことは一度としてなかった。それに、必要なのかと疑問視する。
だからこそ「弟子」という単語は、思い付かなかった。それ以前に誰かに料理の伊呂波を教えるのが苦手なので、自分で料理を作っている方がいい。それにより、弟子入りを志願で集まってくる者達を「いらない」と言って断り続けていたが、いまだに志願者は後を絶たない。
「でも、弟子みたいな存在はいるだろう? あの二人は、いつも頑張っていると思うが……」
「そうかもしれません」
「それなら、弟子として正式に雇えばいい。そうすれば、毎日のように集まってくる人物を相手にしなくていい」
「何故、そのように決めるのですか。僕には、僕のやり方があります。まあ、確かに面倒はなくなりますが……」
「それならいいじゃないか」
「ですから、決めないで下さい」
「いや、簡単なことだよ。美味い料理を食べたいと思っているから。欲に忠実で、的確な言葉。これ以外、何があるという。それに弟子を二人も取れば、お前の仕事が楽になるだろう」
「まあ、確かに……」
確かに、これほど理解しやすい内容はなかった。ジークはその言葉に困った表情を浮かべると、弟子について真剣に考えはじめる。彼の下で働いている二人は、弟子志願で半年前にやって来た。当初はお帰りを前提で物事を進めていたが、いつの間にか店で働いている。
それは、情熱によるもの。
だから、長く居つく。
彼等の仕事に対しての熱意はとても高く、ジークの仕事の手伝いは完璧でかなり助かっている。それに彼等が作る賄はプロ並に上手く、このような腕前と気配りを持っている人物を鍛えていけば高い腕前を持つ料理人になるに違いない。そう思うと、無碍に扱うのは可哀想である。