ベジタブル
「今日は、遅かったですね」
「朝市に行っていた」
「そうでしたか。いつも早く店に来ているジークさんが遅かったので、皆が心配していました」
「そう。で、何で勝手口が開いているんだ。確か、買える時に間違いなく鍵を閉めたんだが……」
いつもの癖で、ジークは普通に勝手口から入ってきた。しかし、よくよく考えれば勝手口が開いているのはおかしい。正面の入り口と勝手口と鍵を持っているのは、店主のジークのみ。
それだというのに勝手口が勝手に開けられ、従業員が開店の準備を進めている。その瞬間、ジークの顔が歪み「鍵を盗まれた」と焦った表情を作るが、レイとディランは冷静だった。
「覚えて、いないのですね」
「何を?」
「二週間前の飲み会です」
「飲み会?」
レイの言葉に、ジークは首を傾げてしまう。そして懸命に記憶を手繰り、二週間前の出来事を思い出していく。
慰労会――
確か、開いた理由はこれだ。
そして無礼講前提で行われていた為に、大量の酒の影響で従業員一同完全に羽目を外していた。飲めや唄えやの大騒ぎまで発展した慰労会。やったということは思い出したが、その先は思い出せない。
「何か、言ったか?」
「言いましたよ」
「覚えていない」
「ジークさんは、大量にお酒を飲まれていましたので。途中から、完全に別人と化していました」
「そうなのか?」
「はい。物凄く」
「驚いたよな」
「うん」
それを聞いた瞬間、ジークは頭痛を覚えた。決して酒に弱い体質ではないのだが、別人と化したということは相当の量を飲んだということになるだろう。すると徐々に記憶が蘇ってきたのか、ジークの顔が赤く染まっていく。そして俯き、自分がしてしまったことを後悔した。