ベジタブル
日々の不平不満と、鬱憤晴らし。そう、ジークは酒の力を使って長々と愚痴った。それは人間に対しての愚痴という訳ではなく、同族の吸血鬼に対しての積もりに積もった愚痴だった。
「凄かったです」
「忘れてくれ」
「で、ですが……」
流石に、あの出来事を「忘れてくれ」という言葉だけで、記憶から抹消することはできない。真面目が取り柄と思われている、ジークの知られざる一面。無論、同席していた従業員は言葉を失ったという。逆に酒に飲まれ、ベロベロのジークは完全に中年の親父状態だった。
しかし従業員を含め、レイとディランはジークに悪い印象を抱いていない。寧ろ、好印象と言う。その理由をして、普段真面目そのもののジークの意外な一面を見ることができたから。
「そ、そうか……」
「また、飲みましょう」
「何れ」
「楽しみにしています」
「で、話を戻すが――」
そう、重要な部分を彼等に聞いていない。それは「どうして自分が開けていない勝手口が、勝手に開いているのか」というものであった。不審感たっぷりの表情を浮かべると、ジークはレイとディランに詰め寄る。いつにない真剣な表情に、二人は戦き一歩一歩と後退していく。
「何故だ」
「ジ、ジークさんが――」
「僕が?」
「俺達に、鍵を渡しました」
「はあ?」
耳を疑う言葉に、ジークは再度聞き返してしまう。自分が二人に鍵を手渡したという。勿論、覚えていない。いや、二人の話ではあの時相当の量を飲んでいたので、これに関しても記憶が飛んだようだ。
「そうだった?」
「はい。このように」
その言葉と共にディランは、ポケットから勝手口の鍵を取り出す。だが差し出された鍵を見ても、ジークは思い出すことはできない。だからといって、その鍵が偽物というわけでもない。どうやら酔っ払っている間に手渡したのだろう、目の前で揺れる鍵を見つつ渋い表情を作る。