ベジタブル
「返さないといけないのでしたら、お返しします。この店は、ジークさんが経営している店ですので」
「いや……」
ふと、朝市のやり取りを思い出す。
二人を弟子に取らないのか。
その言葉に、ジークは明後日の方向を向く。
弟子に相応しい人物が、目の前に立っている。彼等の熱意と根性とその他もろもろを含めると、自分の弟子には勿体無いほどだ。ジークは鍵と二人の顔を交互に眺めていくと、徐に手に持っていた紙袋を彼等に手渡すと、その瑞々しいトマトに二人の表情が明るく染まっていた。
この二人も、野菜に対して並々ならない情熱を秘めていた。流石、ジークの弟子に志願しているだけあって、野菜の目利きは並の料理人を凌駕している。勿論、ジークも信頼していた。
「幾つかな?」
「僕達ですか?」
「そう」
その言葉に、二人はきょとんっとした表情を浮かべていた。ジークの質問にいまいち理解できないのか、互いの顔を見合う。そして先に口を開いたのはディランの方で、彼はジークに自分達の年齢若しくは働いている年月を尋ねているのか聞く。その質問にジークは口許を緩めると、年齢だと答えた。
「俺は、17です」
「僕は、16です」
その年齢に、ジークは何度も頷いていた。十年ちょっとの年齢はジークにしてみれば小者で、四百年以上生きる吸血鬼にしてみれば可愛らしい年齢。そしてこの年齢を吸血鬼の外見に当て嵌めると、愛らしい赤ん坊。だからといって、この年齢ではおしめは取れている。
だが、平均的に80ちょっとしか生きられない人間の場合では、一人前と認識される年齢であった。しかし吸血鬼の間では未熟者に等しい年齢であって、彼等の立ち振る舞いは初々しい。
ある一定の年齢に達した吸血鬼が彼等の側にいたら「可愛い可愛い」と言いつつ顔を綻ばせ、頭を撫で回していたに違いない。そして2人の年齢を知ったジークは、微笑んでいた。
ジークと二人は、親子の差の年齢という言い方は当て嵌まらない。その場合、祖父や曽祖父に等しい年齢の差となってしまう。しかしジークの外見年齢は十代後半なので、周囲にいる者達は普通に付き合ってくれるのだが、160に近い実年齢を誤魔化すことはできない。