ベジタブル
それは、年寄り特有の長い説教。現に、何回かレイとディラン相手に怒ったことがあった。普通、説教は十分程度で終了すればいい方だが、ジークの場合四十分行った実績を持つ。
「若いね」
「ジークさんも若いですよ」
「僕達と変わりません」
「まあ、外見が……ね」
その台詞には、実感が篭っていた。そして、鋭い目付きでレイとディランを睨み付けてしまう。吸血鬼特有の鋭い眼光に、二人は戦く。しかし今までの経験上、血を見ることはないということはわかっていたが、相手は仕事場の上司。それにより、二人は素直に頭を下げた。
「す、すみません」
「き、気を付けます」
「いや、いいよ」
「いえ、本当に……」
「すみません」
「謝らなくていよ」
「で、ですが……」
「本当にいいって」
そのように言葉を掛けると、ジークは肩を竦めていた。ふと、朝市での店主とのやり取りを思い出す。店主はジークに弟子を取ることを勧めてきた。そして彼の目の前に、それに相応しい人物がいる。
真面目という言葉が似合う彼等を見ていると、それも悪くないと思いはじめる。現に、やる気は十分にあった。それに高い素質を持っており、鍛えれば相当レベルの高い料理人に成長する可能性を秘めている。
そもそも今までジークのもとへ訪ねてきた人物の大半は、志望動機はいい加減そのもの。本当に弟子入りを志願しているというのなら、厳しい言葉を突き付けられても頑張って居残り続ける。しかし、大半は「断る」と言った瞬間、ジークの目の前から立ち去っていった。
彼等の努力と根性は、今までの仕事振りを見ていれば明らか。少々の出来事で挫けるということはなく、どのようなことにも立ち向かっていく。これなら、厳しい修行にも耐えていくだろう。
全てを承知の上で、彼等はこの店へやって来た。なら、望みを適えてやってもいい。それに弟子がいると何かと便利であり、仕事が捗る。また、彼等も大事な戦力のひとつになっているので、今彼等がいなくなると仕事の量が増える。だから、二人には側にいて欲しかった。