ベジタブル
念願かなって、ジークの弟子になった。それだけで多くの人間に自慢することができる内容で、何せ今まで多くの人間を一刀両断という名のもとに弟子入りを断ってきたのだから。
そして、ジークが弟子を取ったという噂は一気に広がっていくだろう。あの弟子入りを断り続けてきたジークが、とうとう弟子を取ったのだから。それも、一気に二人も取ったのだから驚きだ。
「ほら、仕事仕事」
「す、すみません」
「全く、自覚を持て」
「はい」
「以後、気を付けます」
従業員の一員として働いてきた二人であったが、正式に弟子入りが決まったということで、二人が置かれている立場が大きく変化していくのは間違いない。勿論我儘は通用せず、これからは技術面を学び磨いていかないといけない。しかしレイとディランは、苦痛を感じてはいない。寧ろどのような技術を学べるのか楽しみなのだろう、顔をほころばしている。
二人の姿にジークは、再認識する。
彼等を弟子に迎え入れて、良かったと――
同時に、彼等をどのように鍛えていけばいいかと迷いが生じる。いかんせん、弟子を取るのは今回がはじめてなのだから。だから、レイとディランを一人前に鍛えられるか不安要素の方が大きい。
だからといって、今更「弟子入りはなかった」と言って、断ることはできない。相手に期待だせておきながら、非情な態度で切り捨てる。そのようなことをしたら、完全に恨みを買ってしまう。流石に商売をやっている上で多くの敵は作りたくなく、それら全てが店の繁盛に関わる。
何事も店のことを中心に、考えなければならない。ジークの思考の大半を占めているのがこれであり、これを考えると他のことが頭に入らないという難点を持っていた。また、新しいレシピを考えている時もそうだ。話しかけても無視をされ、時として睨み付けられる。
それを知っている者達は、ジークが考え事をしている時は近寄らない。無論、弟子となったレイとディランも知っている。もし知らなかった場合、関係はギクシャクしてしまうが、幸いなことにその心配はない。
ジークは愉快な二人を残し、建物の奥へ向かった。其処は従業員が使用している部屋なので、それぞれの従業員の私物が大量に置かれている。ジークはそれらを丁寧にどかし隙間を作ると、部屋の中で料理の時に着る服に着替えていく。その時、不穏な気配を感じ取った。