ベジタブル
「俺が、やるから」
「いえ、僕が」
「いや、俺だよ」
「年上が、優先だ」
「それは、関係ないよ」
「違う。年齢は、関係ある」
「同時期に、働きはじめたじゃないか」
「弟子入りした今、関係ないね」
騒がしい男の声音。その声に聞き間違いがなかったら、声の主は弟子に取った二人。何が起こったのか――ジークは扉を開け声が聞こえた方に視線を向けると、何とトマトが入った紙袋を巡って、言い争いをはじめていたのだ。そして誰も止められないのだろう、傍観者が多い。
「何をしているんだ」
「な、何でもありません」
「なら、何で騒いでいる」
「そ、それは……」
「正直に、言うんだ」
「えーっと……」
ジークの鋭い指摘に、互いの顔を見合わせると何も言えなくなってしまう。彼等が喧嘩をしていた大きな理由というのは「どちらが先に、仕事を行うというのか」であった。少しでもジークの役に立ちたいという気持ちで当初は普通に会話を続けていたが、徐々に感情が高ぶっていく。
その思いが悪い方向へ動き、このような喧嘩を勃発させてしまった。二人にしてみれば真剣な内容で言い争っていたのだが、周囲にいた者達は愉快な表情を浮かべている。だがこのまま喧嘩を眺めている暇はなく、早く店を開かないといけない。それに、多くの客が外で待っている。
「どちらども、いいだろう」
「そうですけど……」
「だよな」
「何がいいたい」
「い、いや……」
「ハッキリ言う!」
きちんと順序を追って説明していかなければいけない雰囲気であったが、彼等は無言を続ける。ジークは自分達の師匠となった存在で、それに争った理由を言ったところで「くだらない」と、ひと蹴りされてしまうだろう。つまり言いたくても言えない状況に、置かれていた。