ベジタブル
しかし、他にも理由が存在していた。「どちらが仕事を行うのか……」という問題よりも、自分達の立場をどのように決定していくのか――其方の方が、問題定義として重要だった。同じ瞬間にジークに弟子入りをした同士なので、どちらが先輩として名乗るか争っていたのだ。
先輩と後輩の差は、意外に大きい。だからこそ、先輩の座を狙って互いに必死に口論していく。レイとディランはやっとの思いで理由を口に出し説明するが、それを聞いたジークは溜息と同時に片手で顔を覆う。それは馬鹿馬鹿しい問題といっていいもので、呆れてものがいえない。
「お前達は……」
「ほら、やっぱり……」
「でも、言わないと怒られる」
「そうだけど……」
「争うな!」
そもそもジークは、二人が懸命に争っている意味を理解していない。その理由として、ジークは特定の人物に弟子入り経験を持っていないからだ。その為、先輩と後輩の間に存在する高い壁の重要性にいまいち気付いておらず、どちらでもいいから早く決めて欲しいというのが本音。
「でも、ジークさん……」
「何だ」
「先輩と後輩を決めておいた方が、いいと思います。何か頼む場合は、先輩の方を優先……」
「年上の方が、先輩でいいだろ」
「ほら、年長者を称えないと」
ジークの言葉を受け取ったことにより、年上のディランは気持ちが更に大きくなってしまう。彼は腰に両手を当て胸を張るが、選ばれなかったレイは悔しい気持ちでいっぱい。やはり先輩の座を失いたくないのだろう必死に反論し、その結果再び口喧嘩がはじまってしまう。
「年上といっても、ひとつしか変わりません。それなら、年上という枠で括るのは悪いことです」
「ひとつでも、先輩は先輩だ」
「これは、横暴です」
「人間の世界では、横暴なのか?」
やはりジークはその辺りがわからないらしく、ウエイターとして働いている人物にその点を尋ねてみるが、相手から適切な言葉は返ってこない。ただ苦笑いを浮かべ、肩を竦めるのみ。それだけ手に負えないらしく、また二人のやり取りは子供っぽいので、誰も口を挟まない。