ベジタブル
「弁当は、冷めてから食べる物だ」
「はい!」
「後々、弁当の作り方を教える」
「楽しみにしています」
ジークの言葉の全てが、彼等にとっては新鮮だった。通常、修行というのは想像以上に厳しい印象を持つ。しかしそれさえ楽しんでしまうのが、レイとディランの凄い一面だった。
「これで、いいのでしょうか」
「ああ、いい出来栄えだ」
「で、これは……」
「蓋を閉めて、そのあたりに置いておいて欲しい。後でこの弁当を受け取りに来る人物がいるから」
その言葉に、レイとディランは同時に首を傾げていた。彼等の反応にジークは、淡々とした口調で理由を語っていく。これらの弁当を受け取りに来る人物は、例の冒険家やトレジャーハンター。
彼等はジークお手製の弁当を受け取ったと同時に食べてしまうことが多いので、包装紙の無駄になってしまう。それを聞いたレイとディランは、互いの顔を見合し驚きの表情を作る。
無論、裏でジークがそのようなボランティアをしていたというのは知らない。しかし同時に、ジークの優しい一面に心打たれる。そして次の瞬間、二人はジークの手を取って瞳を輝かす。
「さ、流石です」
「えっ!?」
「ますます、尊敬します」
「あ、有難う」
「では、他の弁当も詰めてしまいます」
「その前に、手を洗う」
「あっ! す、すみません」
弁当箱の中に詰めている物というのは、ジークの店で振舞われている賄い料理。それに、ジークが実験的に作っている試作段階の料理という物まで詰められていた。完全に味見役。であったが、試作段階とはいえ美味しいものは美味しい。それにより、文句を言う者はいない。
ジークの交友関係は、予想以上に広い。まさか、これほどのネットワークを持っていたとは――侮れないとは、このことを言う。同時に、信頼があるからこそ多くの人に好かれるのだ。レイとディランは、改めてそれを知った。そして自分達も信頼される料理人になりたいと、目標を持つ。