ベジタブル
「他の店は、やっているのですか?」
「いや、聞いていない」
「では、独占販売ですね」
「……嫌な、言い方だな」
「いえ、悪い意味ではないです。このように誰かを助けるということは、簡単にできません」
レイとディランは懸命に褒め称えるが、ジークは素直に受け取ることができない。何故なら弁当に詰め込んでいる料理は賄であり、時として試作の味見をさせているので正直言って心苦しい。
本当ならそれなりの料理を提供しないといけないのだが、貰っている金額を考えると、これが精一杯。だからといって、金額を上げるわけにはいかない。そうすれば相手を苦しめてしまうので、今の献立で我慢してもらうしかない。内心、すまないという気持ちが強い。
「僕達も作ります」
「料理の練習になるし」
「練習?」
「はい。教えて頂く前に、自分の実力を見たいと思っています。ですから、作らせて貰います」
「冷めた状態で美味しく食べられる料理は、今まで作ったことはなかったです。ですので、個人的に練習です」
「そうです。決して、不順な動機ではないです。それに、おかしな料理は作ったりしません」
「……そうか」
自己弁護をはじめていく二人に、ジークは思わず笑ってしまう。何事も全力でぶつかるのはとても良いことであるが、それでは疲労の蓄積が早い。肝心な時に倒れてしまったら、元も子もない。
言葉として彼等に伝えたことはないが、二人の存在は大きい。今まで一人で頑張ってきたジークにとって、手伝いがいるといないとではかなり違ってくる。お陰で、仕事が楽になった。
タフな一面を持つと思われている吸血鬼であったが、内面は人間と代わることはない。無論、ストレスも蓄積する。または疲労の蓄積の影響で倒れる寸前までいったことが、過去に何回もあった。
経営している店の規模はそれほど大きなものではないが、店を訪れる客によっては大変な場合が多い。それを考えれば、内情は大きな店に等しい。ウエイターやウエイトレスは雇っているが、それ以外は全てジークが行っているので身体に掛かる負担はかなりのものだ。