ベジタブル

 朝市で弟子入りの話が出なければ、永遠に弟子入りという考えは生まれなかったに違いない。これもまた、運命の悪戯というべきか。誠実で真面目な二人に出会ったことは、素直に感謝できた。

 何より二人の性格が面白く、常にテンションが高く何事も全力で突き進む。それは実に職人向きの性格であり、どのようなことも貪欲に吸収する意欲は彼等を成長させていくに違いない。

 ふと、ジークは人の気配を感じ取った。次の瞬間、表情が変化していくが殺気は放ってはいない。どうやら気配の主が知っている相手だったのだろう、ジークは作業の手を止めると弟子達に話し掛ける。

「ああ、用事を思い出した。後は任せるよ。弁当を受け取る人物は、勝手口から入ってくる。金は貰ってあるから、渡せばいい。それに、別に相手は恐ろしい人物じゃないから大丈夫」

「わ、わかりました」

「師匠は、何処へ」

「同族との会合。何、その顔は?」

「えーっと、その……」

「吸血鬼ですよね」

「そうだけど」

 ジークの「同族」という単語に、二人は目が点になってしまう。同族といえば、吸血鬼に間違いない。決して恐ろしい種族ではないとわかっているが、本能的に相手を警戒してしまう。

「大丈夫。僕と同じだ」

「そ、そうですか」

「彼もまた、血は吸わない。最近、血を吸うのが廃れてしまっているらしい。あれは、美味しくないからね。ほら、成分に関しては普通に食事をすれば同じだし。それに、意味として……」

 大笑いをしながらそのように話していくジークに、レイとディラン何も言えなくなってしまう。これもまた、時代の流れというべきものだろう。吸血鬼もまた、変わりつつあった。

 いや、これは味覚の問題なのか。それにジークの最後の言葉が意味深かったので、二人はその意味を問うように質問するが、ジークは笑っているだけでその意味を語ろうとはしない。

 それどころか、聞いてもいない吸血鬼の好物について語り出す。何とそれはトマトらしく、色が血に似ているというところがいいらしい。それに関してジークも同意見を持っているらしく、現に新鮮なトマトを使ったジュースは美味い。尚且つ、塩分を入れると更にいいらしい。
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