ベジタブル
それにジークの場合、野菜さえ手渡してくれればどのような情報を与えてくれる。勿論、希少価値の高い野菜の方がいいが、今回アランが手渡したのは普通に出回っている食材。それでも、ジークは特に異論は唱えない。何でも貰うというのが、懐の大きいジークを証明していた。
「これ、ちょうど欲しかったんだ」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
「何か、問題でも?」
「仲間の話では、高い野菜を持っていかないと怒ると聞いていたから。こんな安物でいいかと、心配だった」
「誰だ、そんな噂をしているのは」
「この一帯を縄張りにしている同業者」
「まったく、いい加減な」
「違うのか?」
その言葉に、ジークは思わず苦笑してしまう。確かに一時期、希少価値の高い高級な野菜を求めることもあったが、自分の店を訪れる客の大半が一般人。それに金持ちではない彼等が注文する料理は、庶民が手を出せる手頃な値段の食事。勿論、味に妥協を許していない。
そして客の比率でいえば、金持ちは全体の二割程度。その為、金持ち主体で経営をしていたら赤字になってしまい店を閉めないといけなくなってしまうので、金持ちではない一般の客を相手に料理を提供しないといけない。しかし客が店を訪れれば訪れるほど、材料が足りなくなってしまうのが現状。
だからこそ、今は安い食材であってもジークは喜んで受け取っている。それでも、一度噂が広がってしまうとなかなか払拭することができない。ジークは咳払いした後、その噂を真に受けなくていいと説明していく。それに高い食材ばかり貰うと、気が引けてしまうと話す。
「それなら――」
「そうしてほしい。それと、これを噂として流してほしい。やっぱり、高額のぼったくりと思われたくない」
「しかし、ジークさんは――」
「噂は怖いよ」
「実感が篭っていますね」
「まあ……ね」
アランはジークの過去を知らない。そしてジークも、自身の過去を詳しく語ることはしない。その大きな理由は、別に語る必要がないからだ。ジークの正体は、吸血鬼。それだけで、十分だった。だが意味深い言葉で好奇心が疼いたのか、アランはどういう過去があったのか尋ねていた。