ベジタブル
そのような人物と対等に遣り合うには、此方側も図太い神経を持たないといけない。だからこそジークは二人に試練を与え、立派な弟子に成長してほしいと考えていた。しかしレイとディランはそれに全くといっていいほど気付いておらず、今も彼等の悲鳴が響いていた。
「厳しいな」
「これでも、優しいよ」
「一族の中で暮らしていた頃とは、明らかに変わったな。人間達の生活に混じったことによって、性格が大らかになったか。俺としては、今のお前の方が付き合いやすい。以前のお前は、何処かツンケとした部分があったからな。あの時は、本気で恐怖を感じたことがあった」
「そうか?」
「ああ、皆が思っている」
「まあ、感想がご自由に」
そのようにはぐらかすも、ジークは自身が変わったということに気付いていた。以前は吸血鬼特有の性格であり刺々しい部分があったが、商売を行うにはそれはいけないと性格を変化させていった。
ジークが人間の世界で店を開くと聞かされた時、周囲は唖然となってしまった。誰もが「無理」だと判断し、止めに入ったという。だがそれは取り越し苦労であったと、今は判断できる。彼の店は盛況で、顧客も多い。そしてジークは弟子を取ったのだから、相手は笑うしかない。
「悪いか」
「悪くはない。ただ――」
「ただ?」
「お前の料理の腕前が、ここまでだとは思わなかった。昔から上手かったが、これまで人気になるとは」
悪い意見を言われると身構えていたジークであったが、予想外の内容に苦笑してしまう。自分の店を開いた理由は「料理好き」が講じてのもの。それなら吸血鬼の世界で開けばいいのだが、何を思ったのか人間の世界で店を開店させてしまう。それはまさに、挑戦だった。
人間は思った以上に味に煩いので、店の経営が上手くいかないと周囲は考えていた。吸血鬼と人間の味覚は大きく異なり。雑食の人間に対して吸血鬼は野菜主体の食事を取ることが多い。
だから野菜中心の店は流行らないと思われていたが、人間の味覚や感覚は実に様々。特に女性はヘルシーということで野菜料理を好んで食し、毎日のように店は盛況だった。無論、その裏側にはジークの血の滲むような努力が隠されており、努力で今の地位を勝ち取ったといっていい。