ベジタブル
「今度、食べに来ていいか?」
「いいよ。料金の割引は、しないけど」
「ちゃっかりしているな」
「こっちだって、商売をしているからね。きっちりと料金を貰わないと、従業員に給料が払えない」
「確かに、そうだが……」
「同族の好(よしみ)は、なしだ」
「それを期待していたが、言われたか」
流石、商売人というところか。容赦ない言葉に、相手は舌打ちをしてしまう。知り合いということで割引を期待していたが、シークは私情を交えることはしない。きっちりと金を取れる時に取らなければ、店が潰れてしまう。特に知り合いという立場なら、尚更であった。
「ああ、そうだ。ひとつ言うことがある」
「何だ?」
「吸血鬼は、二割増し」
「何だよ、それは」
「吸血鬼専用の料理は、滅多に作らないからね。そういうことだから、料金は割り増しだよ」
「お前の料理って、高かったよな」
「普通だよ」
満面の笑みを浮かべつつジークはそのように伝えていくが、正直に言ってジークが作るフルコースは高額だ。それだというのに吸血鬼相手の場合は二割増しというのは、横暴に近い。
しかしこれには明確な理由があり、ジーク自身が吸血鬼であったとしても商売の相手にしているのは人間なので、いつの間にか人間の味覚に変化してしまい吸血鬼の味覚に合わせて料理を作るのが難しくなってしまった。だが、本当は「面倒だから」という理由が強い。
無論、相手は異論を唱えてくるが、ジークは軽く受け流してしまう。それどころか、逆に自分の考えを話していく。それは金銭に執着しているわけではなく、商売人としての考えを第一に考えているからという何とも理解し難い内容であったが、流石にこのいように熱弁を振るわれると反論ができない。それ以前に、ジークは相手に反論のタイミングを与えなかった。
ジークは齧っていたトマトの蔕を勢いよく吐き出すと、相手の顔に視線を合わす。その瞳の色は普段の紫色とは異なり、吸血鬼としての本来の色――紅色を湛えていた。久し振りに見たジークの瞳の色に相手の心臓の鼓動は速度を速め、視線を反射的に逸らしてしまう。