ベジタブル
「どうした、ルイス?」
「いや、別に」
「昔の僕とは、違うよ」
「それは、見ればわかる」
「それなら、いいけど」
ルイスと呼ばれた吸血鬼は、苦笑を浮かべていた。性格は置かれている場所によって変化が生じると言われているが、それを見事に証明したのはジークであって改めて本人を目の当たりすると驚きを隠せない。
しかしジークという存在には代わりないので、だからこそルイスは普通に付き合っている。どちらかといえば、今の雰囲気の方が声を掛けやすい。今は角が取れて丸くなり、ルイスに言わせれば全くの別人。それほど昔は近寄り難い雰囲気を常に放ち、完全に浮いていた。
過去のジークは、何処か荒々しい一面を有していた。攻撃的というわけではないが、何を考えているのかわからない存在。しかし今ではその面影さえ残っておらず、まさに変わりすぎだ。
「仕方ない。二割増しの料金を払うから、食わせてくれないか。久し振りに、ゆっくりしたい」
「予約は、早めにしてほしい」
「必要なのか?」
「太陽が眩しい中、来てくれるのなら別だけど。夜は、予約客専門だ。だから、予約をしてほしい。あっ! だからといって深夜は問題外。この時間帯は、仕込みとかで忙しいから。個人的にルイスも、体質を変化させてくれると嬉しい。太陽の下は、結構気持ちがいいぞ」
「それは、無理だ」
「わかっている。冗談だ」
「わかったよ。で、いつが空いているんだ? できるものなら、早い日にちがいいんだが……」
「うーん、調べる」
ルイスはジークとは異なり普通の吸血鬼なので、太陽の日差しは苦手。無理して太陽が照っている中外出したら、身体が砂となって消えてしまう。流石にジークの料理の為に、そこまで危険を冒すことはできない。また、料理の為に砂になってしまったというのはいい笑いものになってしまう。
だからこの場合、ジークの意見に素直に従うしかなかった。だが、ジークからの回答はない。彼はポケットから取り出した手帳を眺めながら、何やら考え事をしていたからだ。どうやら予約がいっぱいで、ルイスが言う「早い日にち」が、なかなか見付からないらしい。