ベジタブル
「来月……来月末? いや、もっと先かな。この頃、予約が多くて日程のやりくりが難しいんだ」
「そんなに、儲かっているのか! まあ、確かにいい店だよな。一流という名前は、伊達じゃない」
「そんなことはない、ボチボチという感じだよ。で、悪い。今月と来月は、忙しかった。その他にしてほしい」
「随分、先になるな」
細かく書かれた手帳をルイスに向けると、簡単に説明をしていく。ジーク曰く名前が書かれている相手はお得意様なので、断ることは不可能。そして必然的に新規の客は、後回しになってしまう。
説明される内容に、ジークの店の人気の高さを改めて知る。訪問前、ルイスは軽く考えており、昔の好(よしみ)で気軽に食べさせてくれると思っていたが実は違った。料金二割増に、尚且つ予約をしないといけない。それも、数ヶ月先に。その真実に、ルイスは溜息を漏らす。
「お前の両親に、報告しておくよ」
「悪い報告は、やめてほしいな」
「良い報告だよ。ジークの店は、繁盛しています。人間とも仲良くやっているようで、弟子を取ったようです。これでいいだろ? 欠点の報告はしない。心配されるのは、嫌いだろ?」
「まあね」
「驚くぞ」
「僕の両親は、こういうことでは驚かないよ。何というか、物事に滅多に動揺しないというか……」
「だから、お前の出店に反対しなかったのか。確かに、一番反対するべき人物が反対していなかったな」
「まあ、そういうことだ」
その言葉に、ルイスは苦笑してしまう。本来親という生き物はどの種族であれ子供を大切に思うものだが、ジークの両親は「人間の世界で、店を開く」と言っても、特に反対をしなかった。
息子の将来性に期待していたのか、それとも可能性に賭けたのか。どちらにせよ、今の成功は両親のお陰に間違いない。しかしジークは、そんな両親と滅多に連絡を取ってないという。
報告に関しては手紙を送れば済むことだが、ジークは筆まめではない。料理に関しては妥協を許さない性格なのだが、このような部分はいい加減。要は、生活スタイルと一緒だった。だから人間が暮している場所へ赴いてからの状況は、ジークの両親は殆んど何も知らない。