ベジタブル
「で、連絡するから――」
「割引の件は、却下」
「鋭いな」
「話の流れから察すれば、わかるよ」
なるほどと言わんばかりの回答に、ルイスは腕を組み大きく頷く。しかし、此処で引き下がるわけにもいかない。連絡するからにはそれなりの見返りは欲しいので、ルイスはジークに要求を求める。それというのは、ジークが作ったアイスを食べたいというものだった。
「それないいいけど」
「おっ! 有難う」
「で、種類は?」
「やはり、赤い色彩に惹かれる」
「なら、人参アイスだ」
ルイスが求めている野菜を使用した菓子に関しては以前から作成していたので、ジークはルイスの無理難題を聞き入れる。ジークは野菜を使用した料理の他に、野菜を主体にした菓子も得意としている。それは砂糖とバターの使用を極力控えた、野菜本来の甘さを追及した菓子だ。
これはメニューに載っている菓子ではなく一般向けに販売をしている代物で、発売すれば必ず完売する大人気商品。そして全体的な売り上げの三割がこの菓子が占めているほど、評判がいい。
「トマトがいい」
「トマトは水分が多くて、アイスには向かない。ケーキなら、上に載せればいいけど。それでいいか?」
「任せる」
「了解。後で、試作品を作ってみるか」
実のところ、トマトを使用した菓子の作成は殆んどない。水分が少なめの野菜であれば様々な用途に使用することができるのだが、水分が多いと挟むか載せるか限られてしまうからだ。
だからといってジークが諦めるわけがなく、溜め込んだレシピを参考に作ればいい。店をはじめる前はこれほどレシピが多かったわけではないが、これも日々の研究の成果なのだろう個人的にルイスは全ての料理を食べたいと思うが、それには相当の時間が掛かってしまう。
何せ、訪れる客は半端ではない。予約を取るだけでこれだけ苦労するのだから、全ての料理を食べるとなったら何ヶ月――いや、何年掛かってしまうか。といって、諦めることはできない。それに吸血鬼は長生きの種族なので、頑張れば全てを食べることができるに違いない。