ベジタブル
それにジークの料理は評判がいいので、この先何十年と彼は店の経営をしているだろう。ルイスは、心の中でそのように呟いていた。それに、先々の予約を確保してしまえば安泰だ。
料金の二割増は痛いところであったが、ジークの料理にそれだけ支払う価値はある。それにジークの料理を食べたとなれば、一族の間でいい話のネタとなるだろう。人間が暮らしている世界で評判であると同時に、吸血鬼の世界でもジークの料理は評判であった。その一番の要因は「成功」の二文字にある。
「研究しておくよ」
「味見させてほしいな」
「いいよ」
「優しいね」
「そうかな」
「以前は厳しかった」
「だから、今は違う」
その言葉に続き、ジークの口許が緩む。彼の反応にルイスは身の危険を感じるが、ジークの迫力に言葉を失う。実のところこれには裏が存在しており、新しい料理の研究にルイスを使おうと考えていた。
新作の開発は思った以上に苦労が多く、料理の腕前が高いといわれているジークであっても万能な吸血鬼ではない。だからルイスに料理を食べて貰い、感想を聞き出そうと考えた。いつもは自身が食べて判断を下していたが、やはり他人から貰える感想の方が参考にし易い。
今までは弁当を貰いに来ている冒険家やトレジャーハンターの面々にやってもらっていたが、ルイスは吸血鬼なのでちょっとしたことで壊れる心配はない。ジークは裏の事情に勘付いたルイスを逃がすまいと彼の長い黒髪を握り締めると、自分に向かって何度も引っ張る。
「痛い」
「逃げる気配を感じた」
「……やっぱり、毒見?」
「誰も殺しはしない」
「いや、それに等しいような感じがする。以前のお前の性格を考えると、絶対に危険な……」
「何が?」
次の瞬間、ルイスは息を呑む。ジークは爽やかな笑顔を作っていたが、彼の周囲には漆黒という言葉が似合うオーラが漂っていたのだ。それを目の当たりにしたルイスは、本能で理解する。「逆らったら命がない」と。そして彼が取った行動は、ジークへの服従だった。