ベジタブル

「大丈夫。普通に、食える」

「それなら、いいが」

「そう、安心していい」

「ああ、何故このように……」

「何か、言ったか?」

「何でもないよ」

 服従の意思を示したのだから、彼の言葉に従うしかない。しかしジークの腕を批判しているわけではないが、レシピという物が存在しない中で料理を作るというのは試行錯誤の連続。

 中には味覚に合わず吐き出してしまう料理も含まれている可能性も高く、ルイスは身体が持つかどうか心配になってしまう。だが欠点だけではなく、美味しい料理を食べられるという利点も持つ。

 ジークの料理のファンにしてみたらこれほど羨ましいことはないが、その裏側には数多くの苦労が隠されているということを知らない。時として、意識が別の世界へと飛んでしまう場合がある。

 どのような事柄であろうと、それ相応に努力しないといい結果が生まれない。何事も簡単にできたら有難みが少なく、そのことをジークは語ろうとはしないが周囲にいる者達は彼の努力を知っていた。

 ジークは、毎日のように料理の研究を行ない客達に飽きられないように心配りをしている。それが今のレシピの多さであり、店の人気に繋がっている。それを一番に理解しているのが弟子のレイとディランで、彼が喜んでジークについてくるのはこのようなことが関係していた。

 本来であったら弟子や従業員に味見をしてもらうのだが、彼等の身体に何かがあったら償いきれない。それに何かがあってからは遅いので、このような場合は「生贄」に等しい誰かが必要だ。

 その「生贄」を見つけることができた。これほど喜ばしいことはなく、ジークはルイスに気付かれないように微笑むと弟子達の様子を見に行くと告げる。

 「弟子」という単語に興味を抱いたのか、ルイスはジークが向かい入れた弟子達の顔を見たいと言い出す。無論、断る理由はないので彼の言葉を受け入れ、共に弟子の二人が仕事をしている厨房へ戻って行く。




 ふと、勝手口から建物の入った瞬間、賑やかな声音が聞こえてくる。その声音にジークは首を傾げつつ声が聞こえてきた方向に向かうと、とんでもない光景を目撃する。何と厨房で宴会に等しい行為が行われており、それを見た瞬間ジークは怒りが込み上げてくるのだった。
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