ベジタブル
「知りたい?」
「まあ、話してくれるのなら」
「いつか」
「今じゃないのか?」
「今は……ね。気が向いたら、話していると思うよ。別に、話せないような過去じゃないから」
流石にそのように言われると、無理に聞き出すのは失礼に当たる。そう判断したアランは、これ以上のジークの過去を追及しなかった。ジークは雰囲気でアランの考えを察すると、彼に気付かれないように唇を動かす。そして「有難う」と、感謝の気持ちを示すように呟いた。
「で、話は変わるけど……この野菜は、生で食べることができるんだ。店でも、提供している」
「苦くないのか?」
「そんなことはない。なら、食べてみるか? これは生で食べると、美味しい。気に入ると思う」
「そこまで言うのなら」
野菜料理の天才と言われているジークが自信を持って言うのなら、腹を壊す心配はない。それに自分が持って来た野菜の味も気になるのでジークの提案を受け入れていたが、顔は引き攣っていた。根菜類を過熱せずに食べるということに、抵抗がないといったら嘘になってしまう。
一方、根菜類を生で食べて腹を壊したという話を聞いたことはない。第一食中毒は洒落にならないが、衛生面にも気を配っているジークなので腹を壊すという心配は有り得ないだろう。
ジークはアランから受け取った木箱の中から白い根菜類を手に取ると、桶の中に溜めてあった水で綺麗に土を洗い流す。そして、包丁で器用に皮を剥いていった。この野菜は、全体的に白く長細い野菜。普通の人間であったら、これほどのサイズの野菜の皮を剥くのに苦労してしまう。
しかしジークは腕の良い料理人なので難なく皮を剥くと、まな板の上で野菜を細く切っていく。そして切っただけの野菜を皿の上に乗せると、ドレッシングをかけることなくそれをアランに手渡した。
「どうぞ」
「あ、有難う」
正直、アランは躊躇っていた。しかし渡されたからには食べないといけないので、恐る恐る切り揃えられた野菜を摘むと、自身に気合を入れ口の中へ放り込んだ。すると予想に反して、口の中に極上の甘味が広がっていく。それはまるで、砂糖を大量に使用した菓子を食べているようだ。