ベジタブル

「う、美味い」

「時期がいいからね」

「時期って、関係するのか?」

「食材には、旬があるからね。その旬の野菜を上手く使えば、このように生で食べることができる」

「そうなんだ」

「野菜は、生の方が美味い。といって生ばかり出すわけにはいかないから、きちんと調理する」

 それは料理人にとって常識であったが、旬を気にしていない者にとっては難しい内容である。このアランのように「食べることができればいい」という感覚を持つ人間は、旬という言葉を知らない。

 逆にいちいち旬を気にしていたら、普通に食事をすることができない。それにより、彼等の食生活はいい加減という言葉が似合う。しかし、美味い物を美味いと感じる味覚は持ち合わせているらしく、男は全ての野菜を綺麗に平らげてしまった。それも、数分の内に――

 アランは空になった皿をジークの目の前に突き出すともっと食べたいと頼むが、ジークにしてみればこれ以上この野菜を無料で提供するわけにはいかない。そう、この野菜は客に提供する物だ。

 ジークは無言で皿を受け取ると、綺麗に洗い棚の中に仕舞ってしまう。その一連の動きを見ていたアランは「食べたい」抗議するが、ジークはそれに対して反論することはしない。

 それどころかジークは利き手をアランの前に差し出すと、上下にヒラヒラと振り出す。その動きにアランは、何をしているのか理解できないでいた。だが、ジークは何も答えようとはしない。

 なかなか気付いてくれないことにジークは、更に上下に振る手の速度を速め欲しい物を訴えていくが、アランは一向に彼が手を振る意味を理解してはくれない。それどころか、逆ギレ寸前だった。勘の悪いアランに溜息を付くと、堪り兼ねたジークは一言「お金」と告げると、口許を緩めた。

 それに対しアランは間の抜けた表情を作り「何で」と、質問を返して来た。その無礼に等しい反応に、ジークの眉が微かに動く。彼にしてみれば「いい加減に気付け」と叫びたかったが、言葉には表さない。流石にここまで勘が悪いと、一種の病気と勘違いしてしまう。

 それにアランが職業を偽っているのではないかと、本気で疑ってしまう。トレジャーハンターは時として、動物的勘を必要となると聞く。しかしこのように「過度」という単語が似合うほどの鈍感な性格に、果たしてトレジャーハンターという職業が勤まっているのだろうか。
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