ベジタブル

「何?」

「気付いていないんだ」

「だから、何が?」

「お金」

「金、取るのか?」

「勿論、此方も商売しているからね。タダで野菜を食わせるほど、此方は儲かっていないから」

「そういう意味だったのか」

「鈍感」

「い、いいじゃないか」

 ジークの意見として情報料の見返りに野菜を貰っているので、情報屋としての仕事は其処で終了している。しかし今は料理人としてアランと向き合っているので、料理の提供分の代金はきっちりと貰わないといけない。それにこの食材は、明日料理に使用して客に提供しようと考えていた。

 だがアランは今、持ち合わせが殆んどなかった。無論、ジークの店で一番安い料理が支払えない金額ではないが、今ジークに金を渡してしまったら今後の生活に響いてしまう。職業としているトレジャーハンターは何かと金がかかる職業であり、酷い場合は食費を切り詰めなければいけない。

 それを示すかのように、アランの血色が悪い。それから想像できるのは、数週間まともに食事をしていないという証拠。ジークにしてみれば新鮮な野菜を提供してくれる人物が倒れ入院してしまうのは困るが、此方も商売を優先しないといけないので、私情で動く訳にはいかない。

 ふと、タイミングを見計らったかのように低音の間延びした音が響き渡る。その音の正体を知ったジークは、苦笑を浮かべてしまう。一方、音を響かせたアランは赤面し身体を硬直させている。そう、この間延びした音の発生源は、アランの腹が空腹のあまり鳴ったものだ。

「同じだ」

「な、何が」

「冒険家やトレジャーハンターは、食事の回数が少ない。だから、大半の者が空腹に耐えている」

「悪いか」

「悪くはないよ。もう少ししたら、仲間が来る」

 意味深い台詞にアランは首を傾げていたが、その意味はすぐに判明した。アランが入ってきた時のように錆付いた蝶番を響かせながら勝手口が開き、数人の男が入ってきた。そして身形はジークに野菜を持ってきた男と同じで、何処か厳つい雰囲気を彼等は漂わせている。
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