ベジタブル

 その者達は瞬時に、アランの自分と同業者と判断できた。そして更に似ている部分は、血色の悪さ。彼等も滅多に食事を取っていないのだろう、中には今にも倒れそうな者も存在していた。

「いらっしゃい」

「今日は、何かな」

「量が多いといいが」

「腹減った」

「今回は豪勢だ。何せ、予約が急に取り消しになったんだ。こういうことは、早く行ってほしい」

 そう説明した後、ジークはキッチンの奥に置かれている棚の中から小さな木箱を取り出す。それは店で特別に売られている弁当であり、一般向けには販売はしていない特別な物だ。何故なら、彼等のように極貧に喘いでいる者達に特別販売している弁当であったからだ。

 その為、弁当の中身は店の賄い料理が大半を占めるが、中身に何が詰まっていようが彼等にとっては有難い代物。その大きな理由は弁当の値段であり、料理の味付けが最高であった。

 この弁当を作っているのは、有名店の店主であるジーク。その人物の手料理を格安で食べられるというのは、運がいいとしかいえない。そしてこれを聞いたら、多くの者が羨ましがるだろう。

「毎回、助かるよ」

「これで、命が救われている」

「感謝するよ」

「で、一ヵ月分の弁当代」

「毎度あり」

 集まっている人物全員の金が入れられている革袋を受け取ると、袋を開き中身を確かめていく。彼等がジークに手渡した金額というのは、銀貨四枚。そして、勝手口から入って来た人数というのが四人。それを考えると、一人分の一ヶ月の弁当代が銀貨一枚という金額になる。

 その値段を聞き、アランは目を丸くし唖然となってしまう。一般的な相場で言えば、この値段は有り得ない。ジークは一流の料理人であり、多くの人の舌を楽しませる料理を作っている。その人物が作る弁当の一ヶ月の値段が、銀貨一枚とは――知らない者が聞いたら、抗議が上がる。

 しかしジークはその値段で構わないと言い、それに淡々と弁当を配っていく姿は然もいつもの出来事のようだ。その信じられない光景に、アランは静かに見守るしかない。だが、どのような食べ物が詰め込まれているのか気になったのか、開かれた弁当箱の中身を覗き見る。
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